入野様邸

職人さんたちと一緒に作りあげて いくお家


「家を建てよう」と、最初はいわゆる住宅展示場に足を運びましたが、ピンときませんでした。大手メーカーの「土地探しを含めてトータルで提案する」と言われたことは魅力でしたが、あの揮発性物質の独特の臭いや、プラスティックだらけの建具など、質のわりには金額が高いような気がしました。
 そこで、地元の工務店の自然素材の家を見て、比較検討することにしました。偶然、以前からお世話になっている方が、『元の家』を建てていたことを思い出して、資料請求するとともに、会社へ伺いました。
 会社は外壁で建材を試験しているのか、いろいろな形状の素材がパッチ状に張られ、決して格好いいものではありませんでしたが、中に入ってびっくり。兎に角、自然素材!柱は太いし、床も壁も無垢の素材なのです(今となってはあたりまえなのですが。このギャップは本当にすごかった・・・)
 そして、「これからショールームに行きましょう」と案内されたのは、上棟直後で柱しかない状態。社長さんと私は、2Fの仮設板の上で川沿いの景色を眺めながら、妻は柱に怖々とひっつきながら、様々な話をしました。建築中の構造から、誠実な仕事ぶりや自信が伝わってきました。さらに、ストックしている丸太を見ながら、材料調達の仕組みとなぜ低価格でできるのかなど、納得のいく説明をしていただきました。
その夜、引渡し後の家に伺い、完成後の姿が見られたことで、何の迷いもなく『元の家』を建ててもらおうと決意しました。
 一方、土地探しがまだでしたが、社長さんから「土地は縁のものだから焦ることはない」とアドバイスをいただきました。紹介していただいた不動産屋さんは、真面目で親切な方で、当方のニーズを察知して沢山の土地を紹介してくださりましたが、やっぱり「ピンとこない」を理由に、申し訳ないと思いつつも何度も却下してしまいました。しばらくして、景色のよい今の土地が見つかったのは、やっぱり縁だったのかもしれません。
 土地が決まると、建築士の設計士さんとの打ち合わせが始まりました。設計士さんは一言で言うと「行間のわかる建築士」でした。当方の希望をA4数枚の紙に箇条書きして、設計をお願いしましたが、なんと一発目で現在の家とほとんど変わりない図面を作成してくれました。当方のニーズを全て網羅していたので、小変更はありましたが、基本的な部分は変わっていません。
 契約が終わり、旧家(25年で寿命を迎えた大手メーカー製軽量鉄骨造)の解体からはじまり、地盤調査、シンプルな地鎮祭が終わると、工事開始です。グリ石にもこだわる頑丈な基礎が設置され、ついに大工さん総出の上棟となりました。棟梁は、意外にも現場で箒を持って掃除をしていた、若手の大工さんでした。大工さんの仕事はとにかく丁寧で仕上がりも素晴らしい。沢山のカンナやノミを持ち込んで造作していました。特筆すべきはセンスがいいことで、洗面台、キッチン、食器棚や窓枠、カーテンボックス等様々な作り付けにも、耳付きの無垢の板をさりげなく使うのです。江本大工さんは結局、ほぼ一人で家の骨格的部分を造ってくれました。工事には勿論、専門の職人さんが入ります。建物解体、地質調査、基礎、左官、大工、屋根、タイル、建具、水道、ガス、電気・・・その他様々な職人さん達の手により家が完成しました。関係する職人さん達は、技術は勿論ですが、雰囲気や人あたりがよいのです。一見寡黙ですが、話すといろいろなことを教えてくれました。家というものは職人さんたちと一緒に作りあげていくのだということを感じましたし、そのやりとりは本当に楽しいものでした。
家が完成し、引き渡されて最初の印象は、スギやヒノキのいい匂いがし、あの揮発性物質のいやな臭いがしないということでした。数日間家を閉め切っていても気持ちが悪くなりませんし、床の感触もよく冷たさも気になりません。住んでいて居心地がよい、これこそ自然素材のいいところです。
 住み始めてからも、工務店さんと木材のことやメンテナンスの相談をしているほか、時には家とは別の話をすることもあります。当初は家を建てるのが目的だったのに、それはおつきあいの最初のきっかけだったのかもしれません。
 世の中にはインターネットや家づくりの雑誌、住宅展示場などいろいろな情報があります。また、様々なうわさや宣伝広告には惑わされやすいですし、私たちも振り回されました。 しかし「百聞は一見に如かず」です。 是非、『元の家』を見て、社長さんらといろいろな話をすることをおすすめします。
 『元の家』は、日本の木造建築や自然素材へのこだわりがあるにもかかわらず、手の届く価格というのは本当に魅力だと思います。